恋をしたのは姉の夫だった人
 優の「ごちそうさまでした」と言う声は小さくなったけれど、瑞樹はちゃんと拾ってくれた。

「どういたしまして」

 近すぎて瑞樹の微笑みが直視できない。

「苺が元気なのはジミーの肥料のおかげなんだよ。あ!そういえばまだ今日ジミーに餌をあげてない。パパ、あげてくれる?」

 ジミーとは、藤原家で飼っているモルモットである。
カールがかった縮れた毛が特徴のふわふわとした茶色のテッセルモルモットだ。
二年前にホームセンターで売れ残って値段が大変安くなっていたジミーを見て、心が飼ってあげたいと言ったことがきっかけで、迎えることになったのだ。
意味がないのかあるのか不明であるが、ジミーのフンを肥料としてベランダの植物に時々使用している、
ちなみにジミーの性格は臆病でなかなか気難しいが、機嫌のよい時は頭を押し付けて撫でてとアピールしてくるので可愛らしい。

「わかった、あげてくるね」

 瑞樹がキッチンから離れジミーのケージにを置いているリビングへと行くと、 優はホッとした。
最近の優はというと瑞樹との距離に悩んでいるのだ。
彼とは一定の距離を保つ必要がある。
この胸に抱く想いは、一生秘密にして蓋をしなければならないのだから――。

 それでも視線は自然と瑞樹を追ってしまう。
長身の腰を屈めてジミーに餌をあげている瑞樹の横顔をこっそりと見つめた。
穏やかに目尻を下げて笑う彼の横顔は、優の好きな表情だ。

「ねぇ優ちゃん、お汁飲んでみて」

 心の声にハッとし優から視線を逸らした。
いけない、危なかった。

「熱いからふうふうしてね」

「うん、ありがとう」

 うっとりしているところを見つかってしまうわけにはいかない。
優は心に向き合い、差し出された小皿を受け取った。
近頃では瑞樹への想いが、誤魔化せなくなってきているようで焦ってしまう優である。
この気持ちは、絶対にバレてはならないのに。
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