恋をしたのは姉の夫だった人
 今年三十六歳になる瑞樹は、現在優の心を密かに大きく占めている人物。
彼は端整な顔立ちをしていながらも優しい顔つきで、整った目と眉は笑うと目尻に柔らかい皺ができ、ふっくらとした唇は笑うと口角が優しく上がる。
声のトーンも落ち着いていて、まとう雰囲気は柔らかい。
威圧感を与えない白い肌は美しいのに、骨ばった指や浮き出る血管は男らしくてドキッとする。
それから心と同じ少し天然パーマ混じりの黒髪は、動くと柔らかそうにゆらゆら揺れ、気を付けないと魅入ってしまいそう。

 その上、性格は穏やかで優しく、周囲を癒してくれるような人。
心に一生懸命向き合い、よいパパであろうとする姿はとても好感が持てる。
瑞樹を知る度に、彼のことが好きになっていくのだ。


 といっても、姉から瑞樹を紹介されて初めて挨拶をした時は、まったく意識なんてしていなかった。
姉の婚約者として見ていたから当然であるのだけど。
見る目が変わっていったのは、姉が亡くなってから。
心の面倒をみるようになり、瑞樹が必死で心を育てているのを側で見てから。

 子育てはとても大変だ。
心がまだ新生児だった頃、彼女はとてもよく泣く子で、昼間はもちろん夜泣きもひどかった。
夜泣きをすれば、近所迷惑であるからと心を車に乗せて夜のドライブをすることはしょっちゅうで、優も時々付き合ったことがある。
しかし瑞樹は毎日世話をしなければならず、本当に大変な思いをしていたと思う。

 また、心は病気をよくもらい、さらに手がかかった。
これまで幾度となく夜間救急でお世話になったか、数えきれないほどである。
もちろん瑞樹の母親が時々手伝いには来てくれていた。
だが、瑞樹の母親より十五歳年上の足腰が弱く入退院を繰り返している彼の父親の介護もあり、なかなか手伝えないことも多かったのだ。
< 18 / 41 >

この作品をシェア

pagetop