恋をしたのは姉の夫だった人
 そのような大変な状況の中でも瑞樹は、愚痴をこぼさず育児と家事と仕事を頑張っていた。
優ははじめの頃は、姉によく似ている心に会いたいがために彼女のお世話をしていたが、次第に瑞樹の手助けをしたいと思い、家事を手伝うようになったのだ。

 残業がほぼなく休日出勤がない優には、瑞樹を手伝うことは容易いことだった。
彼はというと、はじめこそ申し訳なさそうで遠慮していたけれど、今では受け入れてくれている。
心が安らげる環境を作ってあげたくて、瑞樹の手助けができることが嬉しいと思っていた。
はじめはそれだけだった。
それだけだったのに、瑞樹が真摯に心を育てているのを側で見ていて、いつしか恋心が芽生えてしまったのだ。


「優ちゃん、どう?美味しいでしょう?」

「うん、最高に美味しい」

 優がばっちりOKと手で合図すると、心が「パパー優ちゃんが美味しいってー」と、声を上げた。
嬉しそうな様子に、優は笑顔になる。

「そう、よかった」

「あの、お義兄さん、お鍋そっちに持っていきましょうか?」

「いやいいよ、重いし熱いし落としたら大変だから、俺が持っていくよ」

 気遣い屋のところにキュンとしつつも「ありがとうございます。では、お皿用意しますね」と、義妹の顔で平静を装う。

「ありがとう、優ちゃん」

 瑞樹に柔らかい笑顔を向けられるだけで、胸の鼓動がトクンと震える。
決して、今以上を求めてはいけない。
そうして今夜も恋心に蓋をするのだ。
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