恋をしたのは姉の夫だった人
 三人で食卓を囲むのはすっかり定番の光景になってしまった。
きっと、何も知らない他人からだと本物の家族のように見えるに違いない。
優はまるで心の母親のように、彼女がテーブルに肘を付いて食事をする姿を見た時は注意をしたり、彼女の頬に付いたご飯粒を取ってあげたりとお世話をするのだ。
 
 それに違和感を感じなくなったのはいつだったか。
今となっては、瑞樹の親族が訪れない日は、平日休日関係なくお邪魔している優。
三人で食卓を囲んでいると、ふと怖くなる時がある。
優は部外者で、瑞樹に愛する人ができたらここにはいられなくなるのだ。

 瑞樹に惹かれ始めて間もない頃は、いつ彼の想う人を紹介されも大丈夫なように、料理教室やヨガ教室や英会話教室と短期の習い事に通っていた。
お邪魔する時間をあえて短くして、他のことに目を向けようと必死だった。
けれども、早い段階でそれは止めにした。
なぜなら呑気に習い事をしている間、心が、また瑞樹のことが気になってしかたがなくて、たまらなくなったから。
距離を取るのが難しいことに気が付いた優は、彼に想う人ができるまでは二人に尽くそうと決めたのだった。


 夕食後、瑞樹がすっかり後片付けを終え綺麗になったテーブルに、優専用になったハート型のカップを置いた。
中身は好物のミルクがたっぷり入ったココアである。

「今夜もありがとうね。仕事帰りで疲れたでしょ?」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ、心は私の癒しなので」

「いつもありがとう」

 既に心は寝ていて、リビングには優と瑞樹の二人。
心はつい先ほどまで宿題をしていて、優はそれを見守っていた。
瑞樹か姉かどちらに似たのか心は賢くて難なくこなすのだが、食後になると眠いといって動きが鈍くなる。
そこで睡魔から抜け出させてあげるのが優の役割となっていた。
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