恋をしたのは姉の夫だった人
 優の住むマンションと藤原家のマンションの位置は徒歩十分ほどと近い。
大学を出て一人暮らしをする時に、あえて近くを選んだからだ。
今は近くてちょうどいい距離も、いつかは苦しく感じる時がくるのだろうか。
そう思うと、とても辛い。

 瑞樹にこれからよい女性(ひと)が現れなければいいのに――。
そう思ってしまう自分が醜くて嫌になる。
まだもう少し、もう少しだけでいいからこのままでいたい。
しかし、優の人生は少しずつ変わっていくのである。




 翌日のこと、優は営業部の課長に書類を届けて欲しいと頼まれた。
本来であれば関係者もしくは同じ課の者が直接届けに行くが、誰もが時間がない時など、稀に近距離の会社の忘れ物などを届けることがある。
後輩二人は日差しの強さや寒さなどからあまり行きたがらないので、優が率先して行くようにしているが、今日は会社名を聞き行きたくないと思ってしまった。
いつもの流れで会社名を聞かず引き受けてしまい、後悔することになったのだ。
行かなければならなくなったのは、朝陽の勤めるミタチであった。

 後輩二人に代わってもらおうかとも考えたが、外は激しい雨が降っている。
さすがに雨の中を彼女たちに行かせるのは可哀想だと言い出せなかった。
書類を届けるといってもミタチは大会社である。
それに書類は受付で手渡すだけ。
そうそう朝陽に会うことはないだろうと思い足を向けた。
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