恋をしたのは姉の夫だった人
 さらに朝陽は「何で今まで会えなかったんだ」と後悔するので、優は何と返してよいのかわからず黙っていた。

「今度来る時は教えてくれよ」

 朝陽にそれを約束する義理はないので、困って笑みで返すと、彼は「なぁ、今夜少しだけ話できないか?」と言った。
続けて「おごるぞ?」と優の肩に手を置いた。
おごりというのは高給取りでない優にとって魅力的な言葉だ。
だが相手は朝陽で、夜は心に会いに行くので答えは決まっている。

「ごめん、夜は予定があるの」

「……そっか」

 朝陽の顔が一気に沈むので、単純な優は可哀想に思ってしまう。

「じゃあ昼はどうだ?昼飯食べに行かないか?」

 普段は基本的に弁当を作る優だが、今日は会社の前に移動パン屋が来る日なので、たまにはパンにしようと作ってこなかった。
すぐに断ることができずにいると、さらに誘われてしまう。

「優んとこの近くに定食屋ができただろ、そこのハンバーグ美味しいんだ。優も気に入ると思うよ」

 ハンバーグは優の大好物である。
それを覚えて餌しているのか、心がほんの少し揺れてしまう。

「……でも私、今日は十二時半から昼休憩なの。時間合わないでしょう?」

 時間が十二時よりずれているので諦めてくれると思ったが、それは見込み違いだった。

「全然構わないよ。俺営業だから融通効くし」

 断れなくなった優は、こうしてしばらくぶりに朝陽と食事に行くことになったのだ。
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