恋をしたのは姉の夫だった人
 十二時半を少し回った時刻、待ち合わせの定食屋へ足を運んだ優。
既に朝陽は来ていて、一番奥のテーブル席から優を見ると手を上げおいでと手招きした。
店内はこじんまりとしたいかにも定食屋という感じで、サラリーマンが多くいたが見知った顔は一人もおらずホッとしてしまう。
現在では朝陽とは何の関係もないが、妙な噂が立って仕事がやりにくくなるのは嫌だった。

 水を持ってきた店員にお互いにハンバーグ定食を注文すると、朝陽のスマホが音を立てた。
しかし彼は仕事の電話で今は休憩中だから後でかけるよ、と出ることなく優との時間を優先する。
正直出てくれてもよかったのにと思ったが、曖昧に笑ってみせた。

「優と食事をするのは久しぶりだな」

「そうだね、昔はどこかお店に入って食べるのはファーストフード店ばかりで、公園とかに行ってたよね」

「そうそう、優の弁当すげー旨かったな」

 昔の優の料理の腕を知っている朝陽が懐かしそうに言うので、しまったと思った。
自ら昔話を提供してしまうがもう遅い。
朝陽のために弁当を作りピクニックをしたのは懐かしい思い出だが、今は話すべきではなかった。

「そんなことないでしょう。あの頃は料理も上手くなかったし」

「いや、俺は優の作る卵焼きとつくねが好きだった」

「そんなこと言って、味なんて覚えてないでしょう」

「覚えてるよ。母親以外の人が作る弁当なんて食べないから」

「……もう嘘ばっかり、彼女に作ってもらうくらいしたでしょう?」

「いや、ちゃんとした彼女なんて優と別れてから作ってない」

 朝陽は寂しそうに笑い、目を伏せた。
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