恋をしたのは姉の夫だった人
 朝陽は長身で凛々しい顔立ちで性格は真面目。
一般的に見て女性受けのよいタイプであると思う。

「優は俺と別れてから料理を作ってあげるような男がいたのか?」

 朝陽の目が寂しそうに揺れている。
振ったくせにそんな目を向けないで欲しい。
優はほんの少し下唇を噛んでから「……いたよ」と、言った。
すると朝陽は、小さく苦笑した。

「優は変わんねーな」

「……え、何が?」

「嘘を吐く時にそうやって唇噛むところ、変わってない」

 そんな癖知らない。
優は驚いて、咄嗟に口元を手で隠す。

「優もいい男がいなかったんだな」

「そんなことはないよ、彼氏じゃなくてもこれまで色んな男の人とデートしたり、それなりに色々経験してきたよ」

 それは半分嘘で半分事実。
友人の紹介で男性と出掛けたことはある。
しかし、好きな気持ちを持つことができず、関係が進むことはなかった。
特に今の優は瑞樹に心があるのだし。
優の訴えに朝陽はふーんと言うだけ。
明らかに信用していない様子に嘘はよくないと思い直し、優は今の状況を伝えようと口を開く。

「私、今は好きな人がいるの」

 朝陽の顔から途端に表情が抜け落ち固まる。
なんだか見ていられなくて、彼から視線を逸らした。
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