恋をしたのは姉の夫だった人
 すると朝陽は続けざまに「事実だって。そっちでは優は可愛いから人気があるって聞くぞ?」と言うので、湯呑を置いた。

「もう、全然そんなことないから。元カノについて悪く言わないだけでしょう。大体、受付嬢への可愛いなんて挨拶代わりみたいなものなんだから」

 受付嬢は話しかけやすい立場なので、男性社員や顧客に可愛いなどと褒められることは多い。
また、時々食事の誘いを受けたり名刺をもらうこともある。
しかし、軽い誘いばかりでどれも本気ではないのだ。
既婚者や恋人のいる者もいれば、熱心に誘ってきたとしても他にも声をかけていたりする者もいる。

「いやいやそんなはずないだろ。それに、ずいぶん熱心な男もいるって聞くけど?」

 朝陽の声が探るようなものに変わる。

「熱心な男……?誰?」

 何を言っているのかさっぱりわからない。
首を傾げ彼を見つめた。

「いや、何でもない」

「何でもないって何……?気持ちが悪いよ」

 そう返しても彼は「いや、本当に何でもない」とハンバーグを箸で切り分け始めたので、優も同じく箸を持った。

「ここのハンバーグ美味しいね」

 朝陽はまるで自分が作ったようにそうだろ?と得意げに笑う。
それがおかしくて微笑むと、彼は「なぁ、優のハンバーグまた食いたいな」と言った。

「えぇ?」

「優のハンバーグすげー好きだったから」

 褒められると悪い気はしない。
素直にありがとうとだけ答える。
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