恋をしたのは姉の夫だった人
 しかし朝陽は諦めるつもりはないらしい。

「優にハンバーグをまた作ってもらえたら、俺嬉しくて死ぬかも」

「もう大袈裟」

「俺にはもう作ってくれないのか?」

 朝陽の寂しげに揺れる目を見ると心が痛む。
優は昨日朝陽に告白されたばかりだ。
『本当に好きなんだ。今度は絶対に間違えない。大切にするから』と言われて、戸惑ってしまったのは記憶に新しい。
彼の告白が別れてから時間が経っていない時期であれば、何も迷うことなく受け入れていたけれど、もう遅かった。
優はというと、ごめん朝陽の気持ちには応えられないと断ったが、彼はまだ諦めないと言い、今日誘ってきたというわけだ。

「うん。もう朝陽に料理を作ってあげる関係ではなくなったから」

「また俺を彼氏にしてよ」

 優が眉を下げ困った表情を作ると、彼は「また俺を好きになって」と言った。
朝陽は会わない間にずいぶん積極的になったと思う。
昔は簡単に愛の言葉を囁くタイプではなかったのに――。

「ごめん、私好きな人がいるから無理なの」

 その恋が成就することはないが、まだ想っていたい。
朝陽の気持ちには応えられないので、今日もきっぱりと断った。

「今優が誰を好きでもいいよ。まだ誰のものでもないみたいだから俺は諦めない」

「……そんな」

「優に別れを切り出した時の俺は、自分のことしか考えてなくて最低だった。もう一度やり直したい。時間をかけて優を振り向かせるから。だから、時々でいいから今日みたいに会ってほしい」

 心に衝撃を受け、その切望にすぐに拒めないでいると、朝陽は「断らないってことは了承と取る」と小さく笑った。
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