恋をしたのは姉の夫だった人
 受付のシフトについてもだが、若田は社内のことをよく知っているため、感心してしまう。

「そうよ、毎回把握しててすごいね」

 若田は照れ臭そうにはにかんで、「ご一緒させてください」と、優の横に並んだ。

「今日は風が冷たいですね」

 こめかみを押し付けるような冷たい風がぴゅうぴゅうと吹き流れていく。

「本当だね、今日も仕事中は寒そうだなぁ……」

 受付となると出入口の自動扉にとても近いため、扉が開閉する度に冷気を纏った風が吹き込んでくるのだ。
小さくため息を吐く夕に、若田がホッカイロを差し出してきた。

「柊木さん、これ使ってください」

「え、あ、大丈夫だよ。私はここに貼ってるの」

 今の時期はホッカイロは必須であるので、優はというと腰を押さえてみせた。

「それならこれは指先用にしてください」

 若田は優にさらにホッカイロを差し出した。

「え、大丈夫だよ。これは若田君が使って」

「いえ、俺の分は会社に置いてますからぜひ使ってください」

 このままだと押し問答状態になりそうなので、優は素直に受け取った。

「ありがとう。ではお言葉に甘えていただきます」

 両手で握り頬に寄せてみせると、若田は優しい顔で笑う。
その目尻の笑い皺を見て、優はふと好きな人の笑顔を思い出してしまう。
男性にしては長いまつ毛で、笑うとまつ毛の先が優しい線を描き、目尻に柔らかい皺ができる。
それが大人の男という感じがして、魅力的なのだ。
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