恋をしたのは姉の夫だった人
 昔から朝陽は強引なところがあったけれど、そこは変わっていないようだ。
当時、お互いの友人を含めて数人の男女で遊んでいたのだが、いつからか朝陽は優のみを誘うようになった。
はじめは断ることが多くあったが何度も誘ってくるので、一度それに乗ってみると意外に楽しめた自分がいて、次第に二人きりでいることに慣れ始め、いつのまにか好きになっていた。

 彼はなかなか粘り強い男だと思う。
これから以前のように言い寄ってこられたら優はどうしたらよいのだろう。
瑞樹への想いが簡単に変わるとは思えないが、実ることもない。
今の自分の不安定な立場が嫌になる。

 朝陽はそれから優に求愛することはなく、お互いの仕事のことや、当時遊んでいた友人たちのことについて話をしたりして食事を終えた。
会社に戻った優は、メイク直しに化粧室へ行く。
鏡の中の自分はどことなく沈んだ顔をしていて、仕事に差し障るわけにはいかないと無理矢理笑顔を作ってみせた。
すると、鏡に飯田の顔が映り込んだので、さっと真顔に戻す。
優は「お疲れ様です」と言って、早く退室しなければと急いでポーチにメイク道具を入れていくが、彼女から話しかけられてしまう。

「お疲れ様。ねぇ、受付の一番若い子だけどどうなってるの?」

「どうなっていると仰っいますと?」

「あの子っていつもおどおどしてるし、ミスも多いじゃない。今月になって二度も誤って電話を繋いできたわよ」

 理子は確かにミスが多い。
だがそれでも最初の頃よりはだいぶ減ったのだ。
それにおどおどするのは飯田だからに違いない。
受付皆飯田のことは苦手であるのだ。

「そうですか?彼女、頑張ってますよ?」

 笑顔をみせてそう言うと、飯田は呆れた顔でハァとため息を吐いた。
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