恋をしたのは姉の夫だった人
 ため息を吐きたいのは優の方である。

「これだから受付は……。あれで頑張ってるだなんて笑わせるわ。本当にちょっと顔がいいだけなのに得なものね」

 飯田は受付を見下す典型的なタイプである。
カチンときたものの何を言っても無駄だ。
どうしようもなく底意地が悪い彼女に反撃したところで、得るものはない。

「結婚までの腰掛けなんだからいいのかしら。あなたたちならいくらでも寿退社のあてがあるでしょうしね」

 イヤミな言葉は心を痛く切り裂く。
それでもここまで直球ではないが、似た類いの言葉はよく投げられるので、普段の対応力で乗り切ろうと、何とか笑顔で「失礼します」と言い、急ぎ足で化粧室を出た。
悔しい。
悔しくて無意識に奥歯を噛みしめてしまう。

 逃げ込むように更衣室へ行くが、そこにもそれほど親しくない社員がいたので、控えめな笑みを作り静かにロッカーのある奥へ進む。
ロッカーにバッグを仕舞った時にスマホが振動したので、瑞樹だろうかと僅かに期待したが相手は朝陽だった。

“さっきはありがとう。また飯食い行こうぜ”

 それから立て続けにもう一通メッセージをもらう。

“優、好きだぞ”

 なんだかまるで付き合っているようなものだ。
ちょうど今は心が弱っているので、熱烈なそれに目の奥がちょっぴり熱くなった。
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