恋をしたのは姉の夫だった人
 その日の夜も優は藤原家にお邪魔していた。
今夜は瑞樹が少し遅かったので、優が食事を作った。
メニューは瑞樹の好物のチキンガーリックステーキと心の好きなカボチャサラダとコーンスープである。
二人の好物を作る時間が優は好きだ。
顔に喜色を浮かべて食べる姿を見ると嬉しくなる。

 ちょうどすべてのメニューを作り終えた時、瑞樹が帰宅した。
普段は明るい瑞樹だが、今夜はどことなく暗い。
風邪をもらってしまったのかとか、仕事で疲れてしまったのか、などと心配したものの、夕食時は普段通りの様子だったので、そのことをすっかり忘れていた。

 しかし、心が寝てからのこと。
普段であれば彼がお疲れ様とココアを出してくれるが、改まった様子で「話があるんだけど」と、言われた。
瑞樹はいつになく真剣な表情をしている。
とてつもなく嫌な予感がした。

 まず心に何かあったのだろうかと考えたが、彼女はとても元気そうで普段通りだった。
そうなると瑞樹のことになる。
彼の身辺に変化があったとしか考えられない。
遂に恋人ができたと打ち明けられるだろうかと思うと恐ろしくなった。
瑞樹に見つめられることに、これほど嫌な緊張感を覚えたことはない。

「えっと、今からですか?」

 彼の話を聞きたくない。
悪あがきだが、「今夜はもう遅いですし」と続けると、「少しだけでいいんだ」と言う。
逃げることは難しかった。

「わかりました……」

 優の声はひどくか細く震えていた。
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