恋をしたのは姉の夫だった人
 普段は温顔な瑞樹だが、今の彼の表情はいまいち読めない。
先に口を開いたのは優の方だった。

「えっと、どうかされたんですか?」

 瑞樹は少しの間無言でいたけれど、言いにくそうに「今も好きなのかな?」と尋ねた。

「え……いえ!もう昔のことなので全くです」

「そうなの?」

 眉を寄せて確認する様子は、明らかにまだ疑っている。

「はい。彼のことがすきだったのは昔のことで、今は全然そんな感情ありません!」

 好きなのは、あなたです……そう伝えられない代わりに、きっぱりと伝えた。

「よかった……」

 瑞樹は、ソファーに背をくったりと付け、フゥッと安堵のため息を吐いた。
優は不思議に思い、首を傾げる。
がっかりされるのはわかるが、どうして安心しているのだろうか、と。

 しばらく瑞樹が放心したような顔つきをしているので、優は心配して「お義兄さん……?」と、彼の腕に軽く触れた。
すると次の瞬間、その手を取られ瑞樹にギュッと握られてしまった。
初めて感じる彼の温もり。
体全体が緊張からカッと熱を持つ。

「お、お義兄さん……?」

 優はひどく驚いて、目を大きく見開いた。

「……優ちゃん」

 瑞樹は真っ直ぐに優を見つめ、意を決したような面持ちでいる。
何を言われるのだろう。
心臓がドキドキして痛いくらい。
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