恋をしたのは姉の夫だった人
 正直なところ、優は放心状態だった。
自分に言われたものなのかと疑ってしまう。
つい今の今、瑞樹が別の誰かのものになってしまったらどうしようと、と弱々しい気持ちを抱いていたばかりなのに。

「私を好きなんですか?」

 確認してしまうほど、信じがたい。
夢を見ているような気分だ。

「うん」

 瑞樹がしっかりと頷くのを見て、これは現実に起こっているのだと理解する。
それでも驚きが勝り、喜ぶことができない。

「驚いたよね」

 優は少し間を置いた後に、コクリと頷いた。

「急にごめんね。どうしても抑えられなかったんだ……」

 優はゆっくりと首を横に振った。

「でも俺のこと、考えてほしいんだ。優ちゃんが好きだから」

 改めて好きと告げられることで心がキュンと音を立て、全身でときめきを感じる。

「話を聞いてくれてありがとう」

 彼の真剣な目に捕らえる。
ドキドキし過ぎて胸が苦しく目を伏せた。

 “私も好き”と、簡単に伝えられたらどんなによいだろう。
普通の恋愛であれば、そうやって相手の胸に飛び込んでいける。
しかし相手が相手である。
優は下唇をぐっと噛み締め、言えない想いを胸に閉じ込めた。

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