恋をしたのは姉の夫だった人
 すると突然、横から「おはようございます」と声を掛けられ下から顔を覗かれる。
その顔を見て、ハッとした。

「……若田君、おはよう」

「そんなにスマホを見つめてどうかしました?」

 若田の探るような目はいつになく真剣で、それに少し動揺しつつも首を横に振る。

「何でもないの」

 バッグにスマホを仕舞いながら、笑みを作った。

「あの、今のってもしかして……」

「……ん、どうしたの?」

 明らかに若田は何か言いかけたというのに、「あ、いえ、なんでも」と止めてしまう。
彼の様子がいつもと違うと思ったが、ちょうど会社最寄りの駅に到着したことで会話は一旦終了した。

 電車を降り改札を抜け駅を出ると、外は細かい雨が降っていた。
毎朝天気予報をチェックする優だが、今朝は心が忙しくて確認をしていなったものの、慎重派で心配性な性質から、常にバッグには折り畳み傘を入れている。

「あぁ、雨降ってますね。傘持ってきてないな」

 若田はしまったなと言って、空を見上げながら手をかざす。

「大丈夫、私、傘持ってるの。一緒に入らない?」

 若田は目を丸くして「……え」と答える。

「少し狭いかもだけど、これくらいの雨ならしのげるかと思うの。よかったらだけど、どうかな?」

 優は首を傾げて返事を待つ。
それに彼は「ありがとうございます!お言葉に甘えます」と元気に満ちた声で言った。
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