恋をしたのは姉の夫だった人
 優が傘を開くと、若田は「傘、持ちます」と中棒を掴む。

「え、ありがとう」

 低身長の優が持っても役立たずであるので、お言葉に甘えてそのまま預けることにした。

「いえ、こちらがありがとうございます。スーツの替えもないので助かりました」

「お役に立ててよかった」

 優がフフッと笑うと若田は「ありがとうございます」と、目尻に皺を作って笑う。

「行きましょうか」

 うんと首を縦に振り、共に歩き出す。

「こうして歩くと柊木さんって本当に小さいですね」

「ほんとそうなの。せめて平均くらいあればいいのにってよく思うんだけどね……」

「そうですか?女の人って背が低い方がいいって思っているのかと思ってました」

「そうでもないよ、ライブなんかでは埋もれちゃうし、部屋の高い位置にあるキッチン棚は物を仕舞えないから無駄になるし、洋服は綺麗に着こなせないし、いいことの方が少ない」

 低身長で得をしたことはこれまでの人生でない。
一番の悩みは、女性の服が大体一五八前後を基準としたサイズで作られているので、服が綺麗に着こなせず諦めてしまうことが多々で、オシャレをすることは嫌いではないが、ちょうどよいサイズを探すのが難しいこと。
そのせいで買い物はやや億劫に感じていて、気に入ったものを色違いで購入し面白味がない。

「柊木さんは今のままでじゅうぶん綺麗ですけどね」

「えぇ?何、やだ、どうしたの?」

「いえ、服を着こなせないって言うんで、思ったことを伝えただけです」

 突然褒められたことに驚いて目を瞬く。
< 40 / 41 >

この作品をシェア

pagetop