恋をしたのは姉の夫だった人
 若田は優しい。
しかし、女性に対しよい気分にさせるのが得意な性質ではないと思っていた。

「別に気を遣わなくてもいいのよ」

「気なんて遣わないですよ。本心です」

「……そう、ありがとう」

「その顔、信じてませんね」

 若田がじとっと優を見下ろす。

「だって、らしくないじゃない」

「そうですか?柊木さんのことはいつでも綺麗だって思ってますよ」

 さらりと褒められるとさすがに照れる。
それがお世辞とわかっていても。

「柊木さん、顔赤い……」

 その自覚は自分でもあるので、顔を下に向けた。

「……もう、からかわないで。私は綺麗だとか言われ慣れていないの」

 童顔の顔は綺麗とは程遠いというのに、やめて欲しい。
話を逸らしたく「それより、手は平気?傘、持つの疲れない?」と気遣う。

「大丈夫です。春日さんこそ、肩濡れてないですか?」

「平気よ、ありがとう」

 若田を見上げて微笑むと、次の瞬間「危ない……!」と肩を抱かれ体を引き寄せられた。
気を逸らしたため、店の看板にぶつかりそうだったと気付く。
しかし代わりに若田の肘に当たってしまう。
ドンッという衝動と共に、彼の「てっ……」と、いう鈍い叫びが重なった。
若田は顔をしかめながら、目を閉じている。

「大丈夫……!?」

 足を止めて彼を心配げな目つきで見上げた。
彼は大丈夫ですと笑むが、まだ痛むのか肘をスリスリと脇腹に当てている。

「私のせいでごめんね、痛かったでしょ?腕、動かせる?」

「大丈夫でよ、カッコよく守れずにすみません……」

「どうして若田君が謝るの」

「そこはヒーローみたいに上手く守れなかったからですよ」

 若田はそう言ってはにかんだ笑みを浮かべた。
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