恋をしたのは姉の夫だった人
 なんていい子なのと、胸がギュッと捕まれたような感じがした。

「自分を犠牲にして、ヒーローみたいだよ。ありがとう」

「柊木さんにそう言ってもらえたなら、すごく光栄です」

「若田君は優しいね」

「いえ、そんなことないですよ。行きましょうか」

「うん、本当に平気?」

「はい」

「結構強くぶつけたよね?後で痛まないかな……」

「大丈夫ですけど、あ!」

 突然声を上げる若田を見て、不思議に思い首を傾げた。

「えっと、それほど心配していただけるのであれば、今日昼食に付き合ってくれますか?」

「え、もちろんいいよ」

 実を言うと今朝は料理どころでなかったため、お弁当は持ってきていなかった。
それもこれも昨晩の衝撃のせい。

「本当ですか……!?」

 若田は嬉しそうに顔を緩めるので「うん。おわびにおごるよ」と微笑み返す。

「いえ、それは傘に入れていただいているので、昼食を一緒にしてもらえることだけお願いしたいです」

 なんて謙虚な後輩だろう。
いい子だとまたも思い、頬を緩めた。


 そして昼休み、優と若田はカフェで待ち合わせをした。
そこは、会社から二つ奥の道筋にある地下の隠れ家的な雰囲気の店で、度々情報誌に掲載される場所である。

「お待たせしました。すみません」

 優より少し後に来た若田は、ひどく慌てて息をきらしてきた。

「ううん、全然待ってないよ」

「いえ!待ち合わせより五分経ってます……すみません」

「五分なんて全然だよ」

 若田とは何度か会社外で会ったことがあるので、時間より早く到着するタイプの優の性質を知っているため「いえ、すみません……」と、恐縮する。

「本当にいいよ。お仕事押したんじゃない?大丈夫?」

「少しだけ……でもすみません。ここ失礼しますね」

 優が「どうぞ」と言うと、彼は向かいの席に腰をおろした。
狭い店なので、テーブルも小さく、二人の距離がぐっと近付いた。
< 42 / 67 >

この作品をシェア

pagetop