恋をしたのは姉の夫だった人
 店に若田と来るのは二度目。
偶然にも一度目と同じ場所であったが、二回とも近距離については彼なので特にドキドキすることはない。

「それよりお昼は短いから早く何か頼もう?」

「はい、そうですね」

 優は既に決めていたレディースランチを、若田は本日のランチを素早く決めては注文する。

「ここのランチ、どんな感じだろうね」

「えぇ、楽しみですね。前はコーヒーとパフェ食べましたよね?」

「そう!チョコレートパフェね」

「あれは美味しかったですよね」

「うん、また食べたくなっちゃうなぁ」

 一度目は食事でなくデザートを食べに来た二人。
優はデザートメニューを見つめつつ、これ美味しそうなど口にしながら味を想像する。

「本当ですね。次回はまたデザートを食べに来ましょうよ」

「うん」

 若田は男を感じさせないので、気軽に約束ができる。
話題の映画やドラマの話、流行についてや食べ物の話と、まるで女友達のように会話が弾む。
あっという間に休憩時間終了時刻まで残り十五分となり、時計を見た二人は残りの食事を急いで口にするほど。
しかしそれは、店の出入口扉から瑞樹が入って来るのが見えるまで。
優は彼の存在に驚き、フォークを持つ手を止めた。
瑞樹もまた優に気付き目を丸くした。

 瑞樹はゆっくりとこちらへと近付いて来る。
それからすぐ側まで来ると、一瞬若田に目を向け頭を軽く下げてから「優ちゃん」と優を見つめた。

「お義兄さん……お昼ですか?」

 職場が近いのでいつかばったり遭遇することがあるかもしれないとは思っていたが、まさか今日だなんて。
告白された翌日であり、若田とはいえ異性といる時でありなかなかタイミングが悪い。

「あぁ、うん」

「そうですか、よくここに来るんですか?」

「いや、初めて」

 なんてことだろう。
自分の間の悪さに苦笑いが隠せない。

「お兄さん……ですか?」

 少しの間をついて、若田が尋ねた。
瑞樹をふと見上げると、彼もまた若田との関係を知りたそうな目をしていた。

「あ、うん。この方は私の義理の兄……。お義兄さん、こちらは同じ職場の若田君です」

 年上を紹介する時は簡単に先輩だと言えるが、年下を紹介するとなるとなんとも説明しにくい。
若田は年下ではあるものの契約社員の優より遥かに上の立場にいるし、営業部では期待されている人材であると聞く。

「初めまして、藤原と申します」

 瑞樹が挨拶すると、若田はすくっと立ちあがり「初めまして!若田紘一と申します。柊木さんには大変お世話になっております。よろしくお願いいたします」と、店内に響くような大きな声で言った。
若田の姿はどこか緊張して見える。
瑞樹はというと表情が暗い。
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