恋をしたのは姉の夫だった人
 エレベーターの扉が開く。
密室から開放され、少しだけドキドキが弱まるがすぐ、瑞樹が「俺とも時々出掛けられないかな?」と尋ねるので、また戸惑ってしまう優。

「……え?」

「俺も優ちゃんと出掛けたいな」

 瑞樹の赤い顔を見て、優の顔も熱くなる。

「心と三人で時々出掛けてますが……」

 瑞樹の気持ちから逃げようとするが、彼は首を横に振って「三人じゃなくて、二人で」と言う。

「二人で……?」

「そう、母やお義母さんたちが心を連れだしてくれる時とかさ」

 母親を亡くした心を気にかけて、たまにの休日に、両親や瑞樹の家族が心を連れて出掛けたり、お泊りさせたりすることがある。
優がうーんと悩む表情を作ると、瑞樹の顔は暗くなる。

「もしかして迷惑かな?」

「え、いえ、そんな……!」

 首を横に振るものの、彼の顔は浮かないまま。

「ちょっと今の俺は冷静じゃないね。昼間の彼に対抗心を燃やしすぎてるんだ、忘れて」

 苦笑する瑞樹の表情が切ない。
彼は優の背を押して「降りよう」と、エレベーターの外へ誘導するので、そのままお互い無言で部屋の前まで歩く。
どうしよう、胸が悶々とする。

「お義兄さん」

 優は思い切って振り向く。
瑞樹は少し驚いた顔で、どうしたの?と視線で問う。

「今週、母が真白に会う予定ですよね?実は、行ってみたいお店があるんです。一緒に行ってもらえませんか?」

 瑞樹は姉の夫。
自制しなければならないのに、抑えられない。
罪悪感を抱えながらも口にすると、瑞樹は顔をぱぁっと明るくし「もちろんだよ、ありがとう」と微笑んだ。
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