恋をしたのは姉の夫だった人
 一体どうしたというのだろう。
目をパチパチと瞬くと、瑞樹が緩やかな笑みを浮かべた。

「混んでるし別の場所に行こうか?」

「……え」

「オシャレではないけど、少し歩いた先に美味しい店があるんだ」

 優の返事をまたずに列から抜ける瑞樹。
後ろのカップルが、ラッキー!と、喜びの声をあげたのが聞こえた。

 彼は優の心の内を察してくれたのだろう。
説明できる感情ではないので、彼の思いやりに甘えた。


 二人は手を繋いだまま、5分ほど歩く。
年季の入った定食屋の前に着くと、瑞樹が「オシャレじゃないけど、料理はすごく美味しいよ。すぐに座れるはずだからおいで」と手を引き、中へ入る。

 店内には客が多くいたが、瑞樹の言う通り回転が早く、すぐに席に案内された。
二人掛けのテーブル席だ。
お冷はセルフサービスで、瑞樹が気を利かせて注いで持ってきた。

「どうぞ」

「すみません……ありがとうございます」

 それをコクコクと飲み、喉を潤すと幾分か気持ちが落ち着いていく。
だがすぐに、正面に座った瑞樹の顔が思いの外近いことで、ソワソワしてしまうのだけれど。
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