恋をしたのは姉の夫だった人

想いを感じて

 二人でランチをして、瑞樹の家に戻る頃には16時近くで、心は既に帰宅していた。
優が玄関に入ると、リビングから心が駆けてきて「おかえりなさい!」と飛びついてくる。
彼女に愛しさを感じながら、小さな体を抱き締める。

「ただいま」

「おかえりなさい。ねぇ、パパとのデートどうだった?」

「……え」

 心の口からデートという言葉が出てくるとは思わなかったので、固まってしまう。

「楽しかった?」

 ニコニコと笑顔を浮かべる心。
優は反射的に隣の瑞樹を見つめた。
彼はというと、小さな笑みを浮かべながら「楽しかったよ。心はどうだった?ハムスターはいたか?」と、心の頭をよしよしと撫でた。

「たくさんいたよ!抱っこしたの!今度は優ちゃんも行こうよ!」

 心が嬉しそうにする後ろから、母が「おかえり」と、リビングから出てきた。

「ただいま……」

 心のデート発言はきっと聞こえていたに違いない。
少し気まずさを覚え、目線を彷徨わせる。

「お義母さん、心をありがとうございました」

 母の視線が瑞樹へ向かいホッとしてしまう。

「いいのよ。こちらこそ心と遊ばせてくれてありがとう」

 母は自分によく似た垂れ目がちの大きな目を細めた。

「いえ、そんな……いつもありがとうございます。お疲れではないですか?」

「大丈夫よ。ただ動物園がすごく人が多くて結構待つことが多かったの。でも、心はおりこうさんに待ってたわよ。ねぇ、心?」

 心は得意げに胸を張り「うん、ちゃんと待てたよ」と言う。

「そうなんですか、心、えらかったな」

 心は瑞樹に頭を撫でられると、頬を緩ませる。

「お義母さん、本当にありがとうございました」

「いいえ、楽しかったわ」

 母は「瑞樹さんは息抜きができた?優の相手をして逆に疲れたんじゃないの?」と笑う。

「もう、お母さん、私子供じゃないよ!」

 母を小さく睨むと、優が「パパは楽しかったんだよね?」と尋ねる。
これはまた余計なことを言われそうな予感がして、優は「ねぇ、お母さん、お父さんは?」と、話を無理に変えてしまった。
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