恋をしたのは姉の夫だった人
 父も一緒に出掛けたはずだが、玄関に父の靴が見当たらない。

「お父さんはおばあちゃんのところに行くからって先に帰ったわ」

「そうなんだ……」

 現在、父方の祖母はグループホームに入居しており、両親はよく祖母の下へ行く。
優も心を連れて、時々祖母に会いに行っているが、祖母の状態は芳しくない。
祖母はというと、心を優の子だと勘違いしているほど、認知症が進んでいる。
そんな時、嬉しさと申し訳ない思いが重なり、複雑な気分になるのだ。

「お忙しいのにすみません」

「いいのよ、心に会えるのが私たちの楽しみなんだから。いつまでも心に会わせてくれる優さんには感謝してるの。優さんが誰かいい人ができちゃったら……」

 そこで母は急に話すのをやめてしまった。
途端に空気がしんとなる。
母が何を言おうとしているのか、優も瑞樹もわかっているから。

「そうだ、心。パパと優へお土産を見せようか?」

 話をあからさまに変える母に心が「うん!」と言う。
母は自分と同じで話の転換が下手だが、乗ってくれるのでホッとする。

 ――いつか、彼が誰かいい人を見つけたら……。
この関係は終わってしまう。

 母は自分が瑞樹の隣にいることはまるで想像していない。
やはり、自分では難しいのかもしれない。
けれども別の誰かが瑞樹と結ばれるのは考えたくない。
本当なら自分でありたい。

 我儘な思いに心でため息を吐く。
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