恋をしたのは姉の夫だった人
 その日、夕食を一緒にせずに母と共に瑞樹の家を出た。

「優はいい人はいないの?」

 最近では母と二人きりになることがあまりなかった。
そのため、いい歳であるのに、恋愛の話になったことは今回が初めてで、狼狽えてしまう。

「え?私?そんな人いないよ……!」

 ははっと笑って軽く流そうとするが、母は違う。
これまで何も言ってこなかったのが嘘のように、真剣な表情を向ける。

「優はもう結婚してもいい歳でしょう。心も大きくなってきたんだし、そろそろ自分の幸せを考えていい頃よ」

 母の大きな目がゆるりと下がる。

「そんなこと言われても……相手がいないもの……」

「そうね、結婚は一人ではできないものね」

「そうだよ」

 もしここで、瑞樹を好きだと言ったらどうするだろう。
彼に告白されたらと知ったらなんて言うだろう。

 単純にはいかない関係。
改めてそれを感じながら、瑞樹への想いを胸へ閉じ込める。

「瑞樹さんもいつかいい人をみつけるのよねぇ……」

「……うん」

 それを思うとやっぱり胸が苦しい。
下唇を噛み締めて俯く優を、母がじっと見つめていることには気が付かなかった。
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