恋をしたのは姉の夫だった人
 翌朝、泣きながら目覚める自分にハッとした。
姉の夢を見ていたのだろうか。
今朝は夢の内容を覚えていない。

 ――昨日、お義兄さんと出掛けたから……?

 スマホに付けた義兄とおそろいのキーホルダーをそっと手に取り、握りしめる。
すると、スマホがメッセージを受信したので、画面を開くと若田からだった。

 彼から休日に連絡をもらうのは珍しい。
時々出掛けることがあるものの、すべて会社で予定は決めていたので、何か急用だろうかと心配になったが、違った。

“おはようございます。休日の朝にすみません。今日公演のミュージカルのチケットをもらったのですが、何もなければ一緒に行きませんか?ご多忙なら断ってもらって構いません。できればご一緒したいですが……でも、本当に気を遣わないでくださいね!”

 文面が彼らしく、笑ってしまう。

「ミュージカルか……」

 今日の予定は夕方まで何もない。
瑞樹のことで悩んでいる今、気分転換になるかもしれないと、行くことに決めた。
だが、これがまた新たな悩みが増えることになると、この時の優は思ってもいなかったのだ。



 待ち合わせを場所に行くと、若田は既に居て、彼は優を見つけると大きく手を振った。
なんだかその様子は、子供のようで可愛い。

「ごめんね、遅くなって」

 待ち合わせ時刻より早く行くタイプの優なので、かなり彼は早く来たに違いない。

「いえ、楽しみで勝手に早く来ただけですから」

目を細めて口元を優しく緩める若田は、なんだか機嫌がいいく。
無造作にセットされた髪が台無しだ。
短髪な分、変な方向に髪が引っ張られるを見て、優は「髪……」と、爪先を上げ、彼の頭上に手を伸ばした。

「持ち上がっちゃったよ」

 心にするように、勝手に撫で付けてしまう。
要するに彼は子供みたいなのだ。

「す、すみません……」

「ううん。勝手にごめんね。せっかく綺麗に整えられてたから……」

「ありがとうございます」

 若田は今度は頬をポリポリと掻き「じゃあ……行きましょうか」と言うので、優は頷いて彼の隣を歩き始めた。
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