恋をしたのは姉の夫だった人
 空はよく晴れていて、お出掛け日和。
少し寝不足な自分をお日様の日差しが溶かしてしまうくらい、いい天気である。

「今日は当日の朝にいきなり誘ってすみませんでした。ありがとうございます」

「え、いいよ。何にも予定なかったし。こちらこそありがとう。でも、相手が私なんかでよかったのかな?」

 すると若田が足を止め、「いいに決まってます!柊木さんと出掛けたかったので!」と、大きな声で言った。

「あ、ありがとう」

 真っ直ぐに見つめられる目はどことなく熱が込められているように感じる。
さらにこれほど自分と出掛けたいと言われるなんて、妙な意識を覚えてしまう。

「すみません、大きな声を出して……でも本当に柊木さんと行けてよかったです。ありがとうございます」

 ちょっと照れ臭そうな笑みを浮かべる彼に、違和感が膨らむ。
優はううんと首を横に振り、行こうと視線を逸らした。

「はい、行きましょう」

 ――まさか、若田君は……。
頭に浮かんだ自意識過剰な想像。
若田をそっと見つめると、それに気付いた彼と視線と視線が重なった。
優しく頬笑む若田はいつも通りにも見える。

 ――勘違いだろうか……。
しかし、勘違いでないことを、この後知ることになるのだが、この時の優はまだ知らない。



 ミュージカル会場には、一時間程前に着いた。
二人の席はやや前列の通路に面した場所。
若田は当たり前のように通路側を勧めてくれる。
彼は飲食店でも奥側の席を勧め、車道側を歩くという紳士的な面がある。
瑞樹も基本はそうだが、お互いに心を優先して動いていることが多い。
しかし優は、そんな彼が好きだ。

「早く来すぎましたね」

 席が近いので、お互いの顔と顔の距離が近くなり、相手が若田でも照れ臭さを感じてしまう。
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