恋をしたのは姉の夫だった人
 朝陽とは高校一年の夏から三年の春まで付き合っていた。
初めての恋で初めての彼氏。
青春は朝陽に捧げたと言っても過言ではないほど、優は彼に想いを寄せていた。

 朝陽は優の通っていた女子校の近くの男子校に通っていた同じ歳の男子だった。
二人の破局の理由はというと、彼から大学受験のために勉強に集中したいから別れようと言われたことだ。
それは優にとって青天の霹靂で、別れたくないと一度だけ訴えたが彼の意志は固かった。
とても悲しくてやるせなくて、当時の優は立ち直れないのではないかと思うほど落ち込んだ。
今もあの時のことを思い出すと、彼へ未練があるわけではないが、心が少し切なくなるほど。

 朝陽からの連絡はフラレて以来初めてのこと。
いまだに優の連絡先を残していたことに驚いてしまう。

“優、久しぶり。元気にしてるか?”

「突然何なの……」

 一体どう返せばいいのだろうか。
さっぱりわからない。
返信はしないまま、弁当を持って更衣室を出て多目的スペースへ向かった。

 優はというと休憩時は、普段から多目的スペースで弁当を食べている。
多目的スペースはフロアに一つずつあり、受付嬢である優を含めた三人は、そこで食事を取っていた。
広い社食があるので使用してもよいのだが、飯田のように受付嬢を疎ましく思っている女性社員は一定数いるため、避けるようになってしまった。
親しくしてくれる女性社員もいるが、皆が皆そうでないのが悲しいところである。
会社の顔と言われて華やかなイメージのある受付嬢だが、現実は厳しく窮屈だ。

 多目的スペースは既に数人居て、それぞれ一人で食事を取っていた。
優は一番隅まで行き、窓際のテーブル席の椅子に座り弁当を広げる。
途中、ゴミ回収に来た年配の女性の掃除スタッフと少しだけ会話をしただけで、一人で昼食を食べて休憩を終え、理子のことが気になるので少し早くフロントに戻った。

 午前に引き続き、笑顔を貼り付ける。
ようやく待ちに待った十八時になり、優は業務を終えた。
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