Last Flower
とある日の夕方だった。

私はいつも周りから"フッ軽の代名詞"と呼ばれる程
予定をあまり詰めて生活をしていなかった。
明日遊べる?みたいな誘いは大体行けたし
今から集合!なんてことも全然平気だった。

いつものように何気なく通う大学の帰り道。
LINEの通知音で手元を見ると、
親友の莉奈からメッセージが届いていた。

『明日、赤レンガに牛タン食べに行こ』
(どんなLINEだよ)

心の中でそんなことをツッコミながら
遊ぶ日として予定を開けていたことを思い出す。
(カラオケじゃないんだ、明日は。)
大抵遊ぶ内容を決めていなかった日は、
カラオケで歌い、叫び、はしゃぐパターンが
鉄板だっただけに少し驚いた。
電車を降り、改札を抜けるとおもむろに莉奈に
電話をかける。

「あ、もしもし?牛タンって何」
「赤レンガでふるさとフェアやってんの!
 それの牛タンが美味しそうでさぁー、ね?」
「なるほどね、カラオケかと思ってた」
「それは牛タン食べた後行けばいいさ」
「確かに」
「じゃ、明日うちの前に11:00で。ばーい」

(ほんとにサッパリしたやつだ)
でもそんな莉奈が私は好き。
気を遣わず、楽な友達でいられるからだ。
1週間に1回も会ってればお互いの都合も
分かるし、スケジュールもなんとなく分かる。
そして、このさっぱりした性格がゆえ
癖のないところが最高なのだ。



翌日。
朝起きて窓を開ける。
(今日は寒いな、)
11月ということもあり、風が冷たい。
雲ひとつない青空でも気温は高くはなかった。

「よー、お待たせ」
「寒い」
「ねぇ、ふるさとフェアって外?」
「まぁ、そうだろうね」
「仕方ないか」

そんな会話をしながら着いた赤レンガ倉庫では
牛タン以外にも海鮮丼やカレーといった
ご当地グルメが列をなしている。


「えぐ、牛タンうま」
「これは来て正解だね」
「超柔らかくて最高」
「後で海鮮丼も食べるか」
「てか、あそこ湘南ビールってあるよね」
「ん、あるね。…ん?」
「飲もうよ!飲んじゃおうよ!」
「ねぇ昼間だよ?まだ」
「いいじゃーん!たまにはさ!」
(おっさんかて!)
「あり、賛成」
ツッコミながら飲みたいと思ったのは事実。
湘南ビールの旗につられた私たちは
ビールとサワーを一杯ずつ買い飲み比べた。

ビールを片手に、海沿いを歩いていると
何かの音楽と放送が聞こえた。
「ねぇ、あれ自衛官?」
「あー本当だ、迷彩着てる。」
「ねぇ、行ってみようよ」
「あー、何すんの」
「バッジ配ってるよ笑」
「死ぬほど要らなくないか?」
「いいじゃん!愛美の弟にお土産で」
「まぁ、いっか。暇つぶしになるし」
「迷彩珍しいし、写真でも撮ってもらっちゃう?」
「あり、うちおじいちゃん元自衛官だし」
「じゃ、レツゴー」

そんなこんな軽いノリで来てしまった。
とりあえず誰かに声をかけよう。

自衛官のお兄さんが小さい子と話している。
バッジを渡しているみたいで
もらった小さな男の子は笑顔で手を振っていた。
(優しそうな人だな)
それを見つめながら自然と微笑んでいた。
顔を上げると、その人と目が合った。
(声をかけるならこの人かな)

「あのー、すいませn」
「これどうぞ!!!!」
「、、え?」
「バッジです!よかったら!」
「あー、ありがとうございます」
「これもよかったら!なんかうちの基地の限定で」
「あ、そうなんですね」
「はい!!!!」
「他にもありますよ?」
「あ、はぁ、」
「これもどうぞ!」

私のテンションとは裏腹なくらい
元気なその人は私の手にバッジを載せていく。
間違えたか?と心の中で思いながらも
なんだかそのテンションに乗せられていた。

「お兄さん、記念に写真でも撮りません?」
「え、僕でいいんですか!!」
「あ、はい」
「はい!撮りましょ!」


莉奈がニヤケ顔でカメラを構えている。
(あいつ絶対なんか変なこと考えてる…)

「ありがとうございます」
「写真もらえますか?」
「エアドロですか?」
「あ、インスタとか教えてもらっても?」
「あ、いいですよ」
「え、やった」

絶対に何か不思議だとは思いながら、
インスタのQRコード画面を開いて交換する。

「ありがとうございます」
「いえ!こちらこそ!!」

元気なその人は、また小さな男の子に声をかけて
その場を後にした。

私たちも赤レンガのフェアを堪能したあと、
みなとみらいを散歩して家路に着くことにした。

帰り道、何がなく莉奈がつぶやいた。
「変なのー」
「何が?」
「だって、あの人愛美としか交換してないやん?
 私隣にいるのに眼中にないわって感じ」
「声かけたのが私だからでしょ」
「そうだけどさぁ、自衛官とインスタって」
「まぁ、確かに?職務中だし?」
「あー、私も誰かと話せば良かったー」
「その気なかったでしょ、莉奈」
「まぁねー、写真送るの?」
「いゃ、送んないでしょ」
「じゃ、dmすんの?」
「こーゆーのって大体交換して終わるパターンじゃ、」
「ん??何?」
「dmきてる、、、」
「え?!誰から?」
「いまさっきの人」
私は動揺した。
恐る恐るメッセージを開くと、丁寧な言葉で
書かれた文があった。

『どーも
 缶バッチ渡したものです笑笑
 だる絡みに付き合っていただき
 ありがとうございます笑笑』

(dmきちゃったよ、おい)

「えーどうすんの!愛美!返すの?」
「一応ね?」
「なんて返すのよ」
「とりあえずこんなもんよ」

『こちらこそありがとうございます
 めっちゃ面白かったので全然おっけーです』

文字を打つ私の顔を見ながら
莉奈は言った。

「はぁーん、なるほどね。でも、この会話
 どーすんの?続けるの?」
「まさか」
「え、じゃあダブルタップで終わり?」
「さぁ?なるようにしかならないよこんなの」
「なんでよー、一期一会だよぉ?」
「あんたバカにしてんでしょ、どーせこんなの
 軽いナンパと変わらないでしょ。あーやって
 色んな人と交換してんだよきっと」
「愛美は根性曲がってるなあ〜嫌いじゃないけど」
「どーせそんなもん」
「進展あったら教えてよね!」
「ないから、期待すんな」
「ちぇ、つまんないなぁ」

そう、どーせそんなもん。
そう思っていた。
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