柔道金メダリスト、婚活はじめました!〜最後に選ぶのは、幼馴染?元カレ?それとも婚活?

ep13

私はみなみに連れられ、おしゃれなお店にやってきた。

店内に入ると、薄暗い照明。

真っ黒な壁に美術館に飾られているような絵画が架けられている。

黒いエプロンを着用した高身長な店員さんが席まで案内してくれた。

席につくと、目の前に5人の男性がいた。

パーマをかけた今どき男性、メガネをかけた真面目系男性、胸元に弁護士バッチのついたインテリ系、ムキムキに鍛え上げられた体育会系、フルメイクが施されている美形男性。

全員がイケメンだった。

「みなさん、イケメンですね。」
「だね。」
「なんか緊張してきました。」
「みなみが連れて来たんでしょ。」
「こういう時って誰から話す感じなんですか?」
「知らないよ、私初めてだし…」

私たちが口口に話していると、その様子を見てみた。真面目系男性が

「僕から自己紹介をします。」

と話し始めてくれた。

それから、全員の自己紹介を聞き、私たちも自己紹介をして、しばらくいろんな話で盛り上がった。

どんな仕事をしているのか、趣味は何なのか、様々な話で盛り上がった。

「池田さん。」

しばらく時間が経ってから、真面目系男性こと賢斗さんが私に話しかけてくれた。

「ここいいですか?」

彼は私の隣の席に腰掛ける。

「池田さん、テレビで拝見してしました。」
「ですよね…」

私は苦笑いをした。

やはり私は自分の知名度を舐めていたようだった。

私は、最近テレビに毎日出ている。

私のことを見たことない人など、この世にはいないのかもしれない。

「素敵だなって思いました。池田さんの挑戦される姿に勇気をもらえました。」

落ち込んだ様子の私に気づいたのか、彼がそう言ってくれた。

この人なら、私のありのままを愛してくれるのかもしれない。

ふとそう思ってしまったのである。

今度は柔道家と言うことを隠すのではなく、ありのままの自分を愛してくれる人を探そう。

そう思っていた。

だから、彼のその言葉が嬉しかったのである。

「賢斗さんは、どんなお仕事をされているんですか?」

私は彼の仕事について知りたくなってしまった。

「商社で働いています。」

商社…おさむさん…

私は理さんのことを思い出してしまった。

私は理さんに何をしてしまったのだろうか。

1ヵ月も返事がない。

私がついて食べ過ぎてしまったことがダメだったのだろうか。

似合わないフリフリのワンピースを着たのが駄目だったのだろうか。

もしかすると、私が柔道家と言うことがばれてしまったのだろうか。

せっかく気分転換に南が誘ってくれたのにもかかわらず、私は理さんのことを考えてしまっていた。

「ゆいさん?どうされましたか?」

さんが、心配そうに、私の顔を覗き込んだ。

そうだ。

今は健人さんとお話ししてる最中なんだ。

他の人のことを考えてはいけない。

そう思いながらも、私の脳内は、おさむさんのことを考えていた。

それだけおさむさんのことが好きになり始めていたのだ。

「そろそろお開きにしましょうか。」

弁護士男性の声掛けで私たちの会は、お開きとなった。

私たちは連絡先を交換し、この日は解散することになった。

「先輩気になった人がいましたか?」

「先輩は健人さんでしょう?」

「え?」

観察力があるふみちゃんが、すかさず、私にそういった。

今日合コンに来ていたメンバーの中では、けんとさんに1番ひかれた。

でも、実際理さんのことをまだ考えている自分もいた。

「そうだね。でも私まだ理さんのこと好きかもしれない。」

「先輩、ずっとうわの空でしたもんね。」

私と1番付き合いの長いみなみ。

南には何も隠すことができない。

そう感じた瞬間だった。

「え?加藤先輩?」

1番年下のさゆみちゃんが突然大きな声を出した。

「おう。お前ら、なんでここに?」

「うちらは、合コンです。先輩は?」

「俺は、ちょっと仕事関係の人と飲みに来てて。」

先輩だった。

先輩先輩の姿を見たのは初めてだったかもしれない。

この深い男性の友達に黒い革ジャン、デニムをミニまとった先輩は、まるでハリウッドスターかのようなオーラを放っていた。

「ゆい…」
「お、お疲れ様です。」

私たち2人には、気まずい空気が流れた。

何故かと言うと、私たちは元恋人同士だからだ。

「…」
「…」

そんな私たちを見たみんなも気まずい空気になった。

「先輩、お待たせしました。」

すると、綺麗な女性がハンカチで手を拭きながら、先輩のもとに駆け寄った。

巻かれた髪に、大きな瞳。

端正な顔立ち、抜群なスタイル。

先輩と並んで絵になるこの感じ。

どこか見覚えのある女性のような気がした。

「ゆいちゃん?」

彼女が私のことを下の名前で呼ぶ。

この透き通った声…

「めぐみちゃん…」

めぐみちゃんだった。

私が体育館裏に呼び出されたときに真ん中に堂々と立っていたあの女ボス。

めぐみちゃん。

彼女のことを見たのは、道場で先輩とキスをしていた時以来だった。

私はあの瞬間の風景と感情が鮮明に思い出してしまった。

私の脳は、瞬時に危険だと察知したのか、

「わ、私先に失礼するね。」

走り出してしまった。

「ゆい。」

先輩が私の名前を呼ぶ声がした。

「ゆい、待てってば。」

先輩は私を追いかけてくる。

まるで、あの日のように。

そして、先輩が私の腕を掴む。

あの日のように。

「ゆい。待てってば。」

なぜか先輩は怒っているような気がした。

「離してください。」

私もなぜか怒っている?

「誤解だよ。」

先輩はあの日と同じ言葉を繰り返す。

「私何も聞いてないです。」

「勝手に判断するのやめてくれよ。俺の話を聞いてくれよ。」

「私がいつ勝手に判断したんですか?キスしてたのは、先輩ですよ。」

「だから誤解なんだって。」

「なにが誤解なんですか?この目で見たんです。私は。もう昔のことなのでいいです。お願いなのでもう構わないでください。」

私は、何に怒っているのかよくわからなくなってしまっていた。

おさむさんから連絡が来ないことにもイライラしていたし、健人さんと向き合おうと思ったのにもかかわらず、理さんのことを思い出してしまう。自分にもイライラしていたし、

挙句の果てには、加藤先輩が当時の浮気相手と今も接点があると言うことを目の当たりにし、それにもイライラしていた。

そんな自分が嫌だったのかもしれない。

私はこのイライラから逃れたい。

そんな思いで、どこかへと走り出していたのだった。
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