マフィアの弾丸 II
ちょうど後部席と運転席を挟んだカーテンの前方から、野太い男性の声音が恐る恐る、といったふうに失敬する。
カーフェイが発言を許可するやいなや。
男はひとつ、咳払いをすると「────申し上げます」と挨拶を前置き、どこか重たげに開口した。
「今日は夕方まで職場に出勤されておいでです。先刻、数十分まえには
すでにホテルを出られていたご様子で」
「…あぁ」
「ですがそのっ、…………」
「…」
「いっ、……ちど…、」
「…」
男の、────どこか煮え切らない発言の有無に、だんだんとカーフェイのまとう気配が温度を下げていく。
それはアーウェイにしても類同。
足を組み、太腿に肘を突き立て頬杖をついたラフモードであるにもかかわらず
その様子はどことも知れない、鋭利な圧を滲ませていた。
・・・・・あきらかに。
彼らにとっては重要なのであろう事案を、男は口にしようとしているのだ。
────…しかし果たして。
現段階で報告しても良いものか。
はたまた、判断を誤りたとえ尚早であっても早期のタイミングで、報告するべきであったのか。
いまさら後悔先に立たず。
男は意を決し、非常に重苦しい含みを携えてしずしずと口火を切った。
「………いちど、……ホテルまで引き返された、ようで」
刹那、────…ヒュ、ッ。と。
空気が一気に。
凍っていくような気配に変わった。