マフィアの弾丸 II
「…、お待たせしてすみません。何度も、場所変更をしてしまって、」
走り寄る私のことを、腕を組み繁々と見詰めおろしにくる彼女に、
何よりも先に。
こちらの非を詫びて低頭する。
すると、
いちどパチクリ。瞬きをして口角だけを皮肉っぽく吊り上げた彼女は、
「逃げるのかとおもっていたわ」なんて。
冗談にも聞こえない不敵な言葉といっしょに、
そう
嗤ってのけたものだから軽く目を眇め。
つい、寄った眉間の皺にのせた感情に自覚しつつも、キュ。と唇をキツく引き結び
なるべく平然を装う。
そうして
すこしの間を置いて『否』と切り返すと、
「…。重ね重ね申し訳ないです」
「あら、べつに謝らなくてもいいのよ。ちゃんと約束を守ってくれたんだから。
────…それとも、
何かべつの方法で躱そうとした。
ってことなのかしら?」
「いや、……いいえ」
「そう、それならよかったわ。さ、乗ってちょうだい」
「…、失礼します」
開けられた後部座席の車内へと。
意思とは反し渋々、足を乗せその身を仕舞っていく。
黒クッション付きの、フカフカなシートに腰を下ろし。
扉を閉められたと同時に反対側のほうから乗り込んでくるのは、彼女────船岡さんの姿。
貴重な高級車の車内、
…なんて舐めまわすようにじっくり、観察できる状況でも度胸もなく。
ただゆらり、のらりくらりと。
どこに連れていかれるかもわからないまま、私は緊張感と走行中の揺れに身を任せ。
息を殺して到着するのを、
ひたすら静かに。
待つばかりだった────…。