マフィアの弾丸 II





 ────「アーウェイ様、」

 ────「アーウェイ様だぞ、オイ!っ誰か。ご挨拶にっっ」



 ────「きゃっ、アーウェイ様だわっっ!
 やだ、どうしようっメイク直しが」



 ────「カーフェイ様までご参列なさるとは。松泉寺(しょうせんじ)財閥は
 さぞ見込まれているんだろうなぁ」

 ────「ほんに。松泉寺一家(あそこ)はこれからも
 安泰じゃな」




 ざわりざわり。

 ひそひそ、きゃあきゃあ。



 パーティー会場と言えどもやはり、ひそやかな感嘆は隠しきれぬもの。


 各々、お嬢様方やご婦人、紳士や財閥家の子息らしいきっちり、正装を着こなした

 身分高そうな20〜30代ぐらいの若い、男性たちまで。



 押し黙っていても、耳に突き刺さってくる、羨望と期待の、人々の声調には。

 複雑さといっしょに、休まっていたこころを抉るのには十分な、言葉の棘たちだった。




 船岡さんの後ろに、身を潜め息を潜め。

 その久しい姿たちを、ただ呆然と。


 目に、焼き付けていく。




 (……、綺麗。だな)




 若干、不機嫌さも如実に、キリッとした柳眉(りゅうび)が片ほうだけ吊り
 上がっているけれども。


 相も変わらずその玲瓏たる美の表情は、無だ。

 その面差しからは彼の心情は、押しはかることも叶わない。



 普段、お昼刻に会うスーツ姿とはまたちがった、正装のスーツ姿で。

 今日も、スキンヘッドのSP数十人を従えて颯爽と、ホール会場に入場していってしまったカーフェイさん。


 その傍らには、
 いつものシルバーブルーの彼が、咥え煙草をしたまま何やら、
 タブレット端末に視線を遣りつつ
 会場入りしていって。


< 82 / 108 >

この作品をシェア

pagetop