マフィアの弾丸 II





 「……は、話せ、ない?」


 「えぇ」



 ・・・・・・『話せない女性』?

 え・・・・。


 どういう・・・・、




 現状把握と彼女からの急な発案に、すぐには頭が追いつかず脳内不動になってしまった。


 それでも状況は。

 若干、騒がしいエントランスを横切り、ゆったり、
 会場まで歩を進めていく
 彼女に伴われて私も前進していくしかなく。



 ただ理解しあぐね動じてしまっている気配には、やむを得ず。
 といった感じに
 助け舟をだしてくれたのは、他でもない。

 彼女に従えている側近の、
 壮年の男性であった。


 彼は私の身長に合わせ、上体を屈めながら
 隣りに並び歩くと、
 また淡々と口を開いていく。




 「身なりはそれなりに変えられても、
 声は誤魔化しようがない。そういうことです」


 「…」


 「仮に、声を聞いた時点で『貴女だ』と判別できる
 間柄であるなら
 こちらとしても不利なのですよ」


 「…、そ、れ」

 「お解り、いただけますね」



 わかっていなくとも、賛同しろ。そんな、圧をかけられ開きかけていた口が。

 音を発することなく、閉じてしまう。



 でも事実、現状の私が無闇矢鱈(むやみやたら)に抗議したところで、きっと。

 この状況から脱するために
 いまは、


 少なくとも今は、
 否をしめすのは得策ではない。




 「…………はぃ」


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