マフィアの弾丸 II





 圧をかけにきているような忠告に、自然と目は泳ぎ、募ってく恐怖心からか下唇まで噛んでしまう。

 けれども反駁(はんばく)するには語彙力も、度胸だってもち合わせていない己の弱点を自覚してるからか。



 大人しく首肯(しゅこう)する他、術はない私を見て、
 気を良くしたらしい船岡さんは。

 「わかってくれたようで嬉しいわ」と、豊麗につくりあげた女神のような微笑みで
 そう口にする。


 そうして
 すこし損なっていた機嫌を持ちなおすと
 私の手をひき、
 優雅に(いざな)いはじめた。




 「さぁ、()の方々にご挨拶に伺いましょう。
 貴女は話せない秘書として。
 わたくしは、船岡ホールディングスの代表として。
 父上に無理言って、
 今回だけは特別に参列させてもらったのよ」



 そんなふうににこやかに言の葉を紡ぐ彼女は、(いささ)か実年齢よりも
 子どもっぽく映って。




 「あぁ、竹倉たちはここで待っていてちょうだい」


 「御意」

 「畏まりましたお嬢様」




 後ろをふりかえり、側近の男や周りをかこむSPの数人にはその場で待機するよう、
 指示をだした彼女は。

 各々、深く低頭する彼らにいちど、頷くと
 今度は私にも視線を流し、



 「────だから、ご無礼のないようにね」そう、釘を刺すことだけは忘れずに。

 えっ。とこちらの理解が追いつく暇もなくつよく、引かれた右腕に心底、目を見張った。



 い、いや・・・・・ま、待っ、て・・・。

 まだ私だって、持ち直す準備ができて、無い・・・・、



 こちらの動揺などいざ知らず。


 彼女に腕を引かれるがまま、大衆の注目や人垣を割り入るようにして引っ張られるごとに
 どんどん近づいてく、

 あの人たちとの、距離に。



 気付けば────…、


 "彼ら"のまえに、

 連れ出されていた────…


< 92 / 108 >

この作品をシェア

pagetop