玉響の一花       あなたにもう一度恋を 三
『よし、そろそろ行くぞ。
 道が混むといけないから、早めに
 行って空港でゆっくりしよう。』


「はい、そうですね。」


初めてのフランス‥‥。
そして年明けから1年行く事になる
私の生活の拠点。


深く考えるのは今はまだやめよう。
まずはこの創立祭のパーティーで
現地で仕事をしっかりするのが
私のするべき事だから。


『フッ‥‥いい顔してるな。』


ラフに髪を崩した筒井さんの少し
長めの髪の隙間から見つめる瞳に
恥ずかしくなり俯くと、顎に指を
添えられて上を向かされる


『‥‥‥仕事で行くからこういうことは
 我慢だな。』


綺麗な顔が近づくと啄まれた唇に、
顔が真っ赤になった私が顔を背けると、
もう一度顎を捉えられ深いキスと
絡められた舌に体の力が抜けた。



『それくらいの力で今はいればいい。
 着いてからが本番だから。』


それならそう言ってくれたらいいのに、
出かける直前でこんなことをされると
恥ずかしさで顔をパタパタと仰ぐ


大きな荷物をガラガラと押しながら、
空港に着くと、搭乗2時間前になり
チェックインカウンターにやってきた


『こっちだ。』


えっ?


カウンターに多くの人が並んでいた
後ろに並ぶと、手首を掴まれて
隣のカウンターに並ばされてしまい
慌てて筒井さんを見上げた。


「あのっ‥‥ここって‥‥」


『フッ‥‥初めてのフランスだろ?
 これは社長からの心遣いだ。』


嘘‥‥‥


あまりの驚きでなんて言っていいか
分からないけど、そんな私を見て
クスクス笑う筒井さんに、場慣れ
していなさすぎて恥ずかしくなる


ビジネスクラスなんて初めてだ‥‥


『チェックインしたら、中のラウンジ
 で軽食を取ろう。』


「えっ?あ‥‥はい。」


すごい‥‥専用のラウンジに行けるなんて、仕事と分かっていても嬉しいし、
こんな経験なかなかできないから、
社長に感謝しつつ改めてお会いしたら
お礼を伝えたい


緊張しながら足を踏み入れた場所は、
モノトーンを基調とした大人な
クラッシックな空間で、とても広々と
している。


1人で過ごしやすい個室や、少し広めの
ナッピングエリア、ビュッフェカウンターにシャワーブースなど、想像している
よりも充実した場所に圧倒されてしまう


『フッ‥‥こっちにおいで。
 一緒に何か食べよう。』
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