玉響の一花       あなたにもう一度恋を 三
泰然(たいぜん)
「おはようございます。」


『おはよう、井崎さん。
 ついに今日が人事の選考日ね。』


「はい、朝からドキドキしてますが、
 ダメでも大丈夫です、またいつか
 挑戦しますから。」



海外出張、もとい海外で行われる
創立記念パーティーを兼ねたイベントに
研修と総して行けるチャンスに、
応募をした私は、佐藤さんにもそれを
伝えたら応援してくださり、
この数週間変わらず受付の仕事に
取り組んできた



『行ける人数が限られてるからこそ、
 狭き門ではありそうだけどね。』


筒井さんは行くことが決まってるから、
あと残り3人という少ない枠に、
入社3年という短い期間の私が
選ばれるのは難しいとは思ってる。


落ち込まないって筒井さんと約束した。


チャンスはこれだけじゃないって‥。


昨日ソワソワしてなかなか寝付けない
私を強引にお布団の中に入れて
寝かそうとしていた筒井さんを
思い出す


選考は今日だけど、発表は今日とは
限らないから、私には今やるべき
目の前の仕事をミスしないように
とにかく頑張ろう。



エントランス入り口の自動ドアが
開く度に舞い込む秋風に、ついこの間
までの夏の残暑が和らいだようにも
思える



プルルルル プルルルル


「お疲れ様です。受付の井崎が
 ご用件を承ります。」


佐藤さんが来客対応されていたので、
社内用の内線の受話器を取った


『井崎君、私だが、ジョシュが
 見えたら社長室
 まで案内してもらてるかい?』


「社長、お疲れ様でございます。
 かしこまりました。ご案内
 させて頂きます。‥はい‥はい
 では、失礼致します。」


そっと受話器を置くと、まさかの
社長からの電話に緊張していたのか
ふぅーっと深呼吸をしてしまった


『どうかした?』


「あ、いえ‥
 社長のご友人でいらっしゃる
 ジョシュ様が見えるそうで、上まで
 案内を頼まれました。」


『ジョシュって‥‥懐かしいわね。
 フランス語は私は無理だから、
 頼むわね?』


「はい、離れてる間何かありましたら
 すぐ呼んでください。」


ジョシュ様とお会いするのは本当に
久しぶりだけど、受付に配属されて
間もない頃に、突然尋ねて来て
フランス語で対応した社長のご友人だ


見た目もカッコよくて、
社長と比べたら息子のような年齢差が
あるものの、2人は大の仲良しだと
伺っている
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