忘れられるはずがない〜ドクターに恋して〜
榊原部長は今手を付けている案件、リゾートホテルの買収問題を片付けた後地方に飛ばされる。それは決定事項だった。
部長という肩書は来月にはなくなる予定だ。

シンガポールに行く前に、葵は榊原と戦うつもりだった。
榊原に限らず、役職者の中には業者と癒着している人たちがいる。

そこを徹底的に暴き出したい。しかし、祖父は何より私の身の安全を第一に考えていて、この件からは手を引くように強く言っている。

そんな中、北陸の例のリゾートホテルに関して急遽会議が行われた。

「樫木リゾートホテルの再生案は却下です。あのホテルの買い取りはしません。経営難は最初から分かっていましたが、申し訳ありませんがうちではこの条件での取引はしません」

部長は青ざめた。どうせあのホテルの上役かなんかに袖の下でも貰っていたのだろう。断固戦う。

こちらが良い条件で話をしに行ったのにもかかわらず、小娘とは話ができないと断られたのはあちらの担当者の方。自業自得。

「どうしてもとおっしゃるのなら、予算は前回の10分の1です」

ゴルフ場を持っているリゾートホテルなんて先が見えている。
今の若者の何人がゴルフをするの?維持管理費と将来性から買い取ったとしても先は見えている。

「それはいくらなんでも、むこうがこの金額でOKを出すはずがない」

榊原部長は食い下がる。

「重複しますが、うちはいらないと言ってるんです。金額に不満があるなら尚更いりません」

今楽しんでゴルフをしている団塊世代のお爺様たちがいつまで健康でゴルフを続けられると思っているの?葵はこの先の集客見込み、会員権などの価格の下がり具合をグラフにして提示した。
バブル引きずってるんじゃないわよ。

「その代わり樫山キャンプ場を買い取ります。あそこを大規模なグランピング施設にして若年層と外国人の客を取り込みます」

買い取るというキャンプ場は葵が九死に一生を得たあのキャンプ場だ。葵にとっては思い入れのある大事な場所。

「高齢者にも不自由なくキャンプが楽しんでもらえるようなリゾート仕様のキャンプ場です」

「川崎さん、資料を」

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