忘れられるはずがない〜ドクターに恋して〜

新しい環境

葵はシンガポールで自由を満喫していた。
といいたいところだか、何もすることがなく、シンガポールで1週間が過ぎた辺りで暇すぎて限界がきている。

あの日、夜道で襲われた翌日、新聞には殺人未遂という恐ろしい文字が並んだ。しかし、実際はかすり傷程度の軽症だった。

今回の傷害事件は恨みによる線が強いと、警察も葵の職場の関係者を密かに捜査し始めている。

心配した祖父から、日本にいる友人と連絡を取ることは禁じられ、自分の居場所を知らせることもできなかった。
会社には怪我の治療のため、入院していると言って長期休暇を申請した。
葵を襲った犯人が見つかるまでは、シンガポールから戻って来るなといわれている。

「とにかく暇、やることがない」

ついつい恨みごとが口から出てしまう。
誰も聞いてない独り言は、家具の少ない部屋の中に寂しく響いた。

北陸で、新しくグランピングリゾートをオープンするのであれば、参考になる海外のグランピングリゾートをこの際、見て回るつもりだったが、シンガにはそれがなかった。


やることのない夜は、太一のこと思い出す。
会いたい。声が聞きたい。ただそれだけ毎日のように考えた。

自分の気持ちはわかるけど、相手の気持ちはわからない。彼はさほど葵のことを意識してないのだろうか……

救助されてから、電話をしても、太一はとてもあっさりした対応しかしてくれなかった。

お互い時間が合えば会いましょうレベルの付き合いは、恋人同士の関係とはよべなかった。

日本を出国する夜、彼に LINE を送った。
『今から飛行機に乗ります。シンガポールで新しく携帯を購入するので、この番号は今後使えなくなります。当分は連絡できないと思いますが、また落ち着いたらこちらから連絡します』

『いってらっしゃい。気をつけて。連絡を待ってるよ』

彼からの返信は素っ気ない物だった。


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