忘れられるはずがない〜ドクターに恋して〜

お久しぶり

葵の部屋へ来ると、太一はひと通り室内を確認して、葵をベッドまで連れて行った。

「上脱いで」

葵の両肩に手を置いて太一は葵をベッドに座らせる。

いきなりすぎないか、と戸惑う葵のシャツのボタンを外していく。
葵はみるみる赤くなり胸の辺りまで真っ赤だ。

ブラまで外すと、くるりとうつ伏せに寝かされた。

「ここか。まだ傷が残ってるな……」

指でナイフの傷痕をなぞられた。背中がぞくっとする。
太一は刺された皮膚を確認しているようだ。

まさか本当に往診に来たのかと、きょとんとした葵を見て。
太一は葵の髪の毛をわしゃわしゃ撫でた。

「痕は残ると思うけど、でもこれだけで済んで本当に良かったって」

葵が日本で医者から言われたことを太一に伝える。

「よくねーよ。なんでこんな目に遭ってるんだ。こんな事件に巻き込まれたんだったら教えて欲しかった」

葵は太一の太い腕にしっかりと抱きしめられた。

あの時、この人が一緒だったらきっと守ってくれたかもしれない、そう思うと涙が溢れだした。

「……ごめんなさい」

葵は唇をかんだ。ケガをしたと言えばきっと心配すると思ったし、事件の事は公にしていなかったので誰にも言えなかった。

「……俺のこと……忘れんなよ」

太一は懇願するように彼女に訴えた。

「……忘れられるはずがない」

葵はそう言ったきり言葉を継げなくなった。
太一が葵の唇を塞いで、何度もついばむようなキスをしたからだ。

深く息をつくと、ベッドにゴロンと倒れ込んで太一は天を仰いだ。


「いや、マジでどんだけ口が堅いんだよ、おたくの爺さん」

「……!お爺ちゃんと話したの?」

「じゃないと葵の居場所がわかるわけないだろ。携帯も繋がらなかったし」

苦虫を嚙み潰したような表情で太一は答えた。
犯人が逮捕されて、やっと居場所を教えてもらえたらしい。

「半年かかった」

太一の言葉に思わずクスリと笑ってしまった。

祖父はかなり手強い人だ。
命の恩人だと太一の事を話してはいたが、彼に居場所を教えたとなると、余程気に入られたのだろう。

大阪で仕事があったらしく、その足で関空から来たらしい太一は。

「久しぶりだから、やりたい事も、話したい事も沢山あるんだけど、先にシャワー浴びていい?」

そう言って、葵のおでこにキスをして立ち上がった。







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