忘れられるはずがない〜ドクターに恋して〜

そう考えると、自分は医者ではあるが、はたしてイケてるのか?と疑問に思ってしまう。

昨日葵が話をしていたイケメン外国人は、あのジムの経営者らしい。他にもいくつか会社を持っている実業家だと言っていた。

あいつは葵に気があるだろう。ひと目見て分かった。熱い視線で彼女に話しかけていたからだ。
背も高いし、あの甘いマスクだ。全世界共通でモテる男のすべてを兼ね備えた、選ばれた者のように見えた。


昨夜、俺の事がもっと知りたいと葵に言われた。

葵と一緒にいた時間がそれほど長くはなかったから、お互いのことをあまり知らない。
特に俺は有名人というわけでもない。葵にしてみれば、どんな人生を歩んできたか、知りたいのは当然だろう。

彼女は俺の事を勇敢な人だとか、自分のヒーローだとか言うが、正直そんなたいそうなモノではない。
自分はどんな事をしてきたか、どれほどの偉業を成し遂げたのか、あれば話をしたかったが、そんな英雄伝は俺の人生に於いて全くなかった。

医大生のころは苦学生で、必死にアルバイトしながら勉強した……訳でもない。
実際は、麻雀三昧で過ごした。俺は博打だけはやたらと強かった。小金持ちのおっさんが集まる場末のスナックで、毎晩麻雀を打っていた。彼らから多大なる援助を受けられたおかげで、バイトはほとんどせずに済んだ。という自慢にも何にもならない過去しかないぞと思った。

少々人より頭の回転が早かったので、物事をてきぱき進めることができたし、効率よく勉強したから、そこそこ頭が良かった。だから医者になれた。

そんなやつは世の中にはごまんといる。

俺の自信のなさが、葵に対して強気の行動に出ることを拒んだ。

シンガポールまで彼女に会いに来たが、はたして正解だったのだろうか。

連れて日本に帰る気だったが、それが俺にできるのだろうか。


< 31 / 33 >

この作品をシェア

pagetop