忘れられるはずがない〜ドクターに恋して〜

おまけ


シンガポールから葵を連れて帰ってそのまま入籍した。

あの偏屈爺さんへの挨拶なんかはすっ飛ばした。

彼女は仕事を辞めると祖父に言ったのだがそれは認められなかった。

その代わり、俺たち二人が命を救われたあのキャンプ場を買い取り、そこをグランピング施設にして、新しく久徳キャンピングリゾートという子会社を設立した。そして彼女が社長となり、フランチャイズ化して全国各地に高級キャンプ場の設立を目指す事になっている。

家族ごとに個別に泊まれるそのキャビンはドーム型で、大自然を一望できるように半面がガラス張りになっている。
昨今の密を避けたスタイルを求める旅行客に好まれ、今では予約の取りにくい宿ベスト10に入るくらいまで人気が出た。

太一の診療所はあのキャンプ場からも車で行ける距離にあり、一緒にくらしながら仕事もできるという、最高の条件で新しい生活をスタートさせることができた。

休みの日には二人で満天の星空をみる。外のポーチで自分で焙煎したコーヒーを片手に焚火をしながらいろんな話をする。
空気も美味しい、食べ物もうまい、静かな田舎でのんびり生活。

これほど幸せなことはないだろうと太一は満足している。

****************

「さっぶ……寒すぎでしょう。あり得ない」

昨夜から降り続けている雪はどんどん積もって、降りやむ気配はなかった。

「当たり前だろう。雪が多いに決まっている。ここをどこだと思っている?」

「家から一歩も出られないじゃない。やることないし」

彼女はふくれっ面でも可愛いなと太一は思っていた。

「やる事ならいっぱいあるだろ。ほら、こっち来いよ」

「せめて服を着させて欲しい」

彼女は毛布を引き上げながらベッドの中で体を縮めた。

「わるい。それは駄目だわ」

ほらあっためてやるから、もっとこっち来いよ。と太一は裸の葵を抱き寄せた。
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