人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
「うさまるを助けてくれた人、きっと探しだすからね。今度はマッチングアプリなんて使わずに、ちゃんと正攻法で。きっとひとりでも、大丈夫だから」

 服の袖で涙を拭いながら、プレートとぬいぐるみを握りしめた。
 すると、プレートが左手でカチャリと音を立てる。

「あ、指輪……」

 婚約指輪を着けたままだった。気づいてしまえば、それはひんやりと私の胸を締めつけるよう。

 好きだった。
 こんなに、好きだった。
 好きになってしまった。
 私はなんてバカなんだろう。

「……勇朔さん」

 彼の名をつぶやいたとき、脳天にぽつんと冷たいしずくが落ちてきた。

「あ、雨……」

 空を見上げると、真っ黒な夜にぽつりぽつりと降り出した雨粒が街灯に照らされているのが目に映った。

 だけど、私はその場から動かなかった。雨に濡れてしまえば、涙を流していても気づかれない。それに、私はちょっと頭を冷やしたほうがいい。

 だから私はだんだん強くなる雨の中、ひとり桜の根元の前で涙を流した。
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