人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
「芽郁さーんっ!」

 遠くの方から、勇朔さんの声が聞こえたような気がした。
 だけど、これはきっと幻聴だ。勇朔さんがこの場所を知っているはずがない。私はそれほど、勇朔さんが好きだったらしい。

 勇朔さんのためだ。彼を思い出すのは、もうこれっきりにしよう。
 そう思い、立ち上がったそのとき。

「芽郁さん!」

 私の名を呼ぶ力強い声とともに、水をはじく足音が近づいてくる。
 私は音の方を向いた。雨の降る中、傘もささずにこちらに駆け寄ってくる人影。街灯にぼんやりと照らされたその影は紫紺色で、右肩には白色の飾り紐が見えた。

「……勇朔さん?」

 間違いない。あの制服は、あの飾り紐は。この声は、あのシルエットは、勇朔さんだ。

 思わず彼の名前をつぶやいたとき、彼が私の目の前で止まる。見上げた勇朔さんはほっとしたような顔をしていた。
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