人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
 勇朔さんは私を、桜の木の裏にある墓地の水汲み場に、腰を抱きながら連れてきた。きっと、私に少しでも温かくという気遣いなのだろう。
 勇朔さんとの距離に、私はどきどきしてしまう。だけど、同時に切なく、悲しくなった。

 水汲み場は壁のない、瓦屋根の簡素な建物で、奥には貸し出し用の手桶や柄杓が棚に並んでいた。古そうな建物であるが、雨をしのぐだけなら問題ない。

 私は泣き腫らした顔を勇朔さんに見られぬようにうつむいた。
 暗いからあまり見えないとは思う。だけど、彼にこんな顔を見られるのは恥ずかしい。それに、彼への恋心を見透かされるようなことは避けたい。

 黙ってうつむいていると、勇朔さんはそっと口を開いた。
< 122 / 178 >

この作品をシェア

pagetop