人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
 すると、彼女ははっとしてこちらを振り向く。たくさんの涙が、彼女の頬に筋を描いていた。
 そんな彼女の手は泥だらけだ。思わず動揺しかけたが、それを隠すためにヘルメットを目深に押さえ、心を落ち着かせて言葉を紡いだ。

「あなたが泣いて叫んで、手で土を掘り返したところで、何も変わらないだろう」

 なにをそんなに必死になる?

 素手でできることなんて限られているのに、彼女はそれでもなお自分の泥だらけの手を見つめ、悔しそうに涙を流す。

「だれを、なにを探しているのか、きちんと伝えて欲しい。闇雲に言われても、こちらには伝わらない」

 先程暴れていたことを咎めるような言い方になってしまったことに気付いて、自分自身にため息をこぼした。
 しかし彼女は勇朔の言葉を受け体から力が抜けたように、泥の上にへなへなとへたり込んでしまった。
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