人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
 私は飾り紐のかかる右胸のポケットに手を伸ばす。彼のスマホがそこに入っていた。

「画面をこちらに向けてくれますか?」

 言われるがまま、スマホの画面を勇朔さんの方に向ける。画面を点灯させると、顔認証でロックが解除された。

「一一九番通報をしてくれ」

 勇朔さんがスマホに向かって言うと、すぐに消防に電話が掛かった。しかし、なかなか繋がらない。

「きっと、他の場所も被害にあっているのだと思います。かなり大きな揺れでしたから」

 勇朔さんはそう言いながら、私に微笑んでくれていた。彼といれば大丈夫だ。不思議と、そう思えた。

 やがて電話が繋がり、勇朔さんは端的に状況を説明する。救助隊が向かうと告げられ、ほっと胸をなで下ろした。

「寒くはないですか?」

 電話が切られ、沈黙が訪れると勇朔さんはそう言ってくれた。

「大丈夫です。これ、温かいですね」

 私は勇朔さんのジャケットを抱きしめた。彼の匂いがして、安心する。

「良かったです。もう少し、頑張ってください」

 勇朔さんは微笑みながらそう言う。

 しかし、それからしばらく経った後。勇朔さんのその表情が少しだけ歪んだ気がした。
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