人探しをしていたはずなのに、優しすぎるエリート自衛官に溺愛されています
 大きな桜の木の横。今朝まで普通に通っていた道に、規制線が張られていた。
 交通規制を行う警察官の横にはパトカーが止まり、その電光掲示案内に〝この先通行止め〟と書かれている。

 規制線の奥には、何台もの災害救助車が停まっている。ここから土砂は見えないが、左手の山は崩れて山肌が見えており、土と泥と何かの混じった、雨の日だからというだけでない嫌なにおいを強く感じた。

 この先は、何件も民家の連なる住宅地だ。もちろん、我が家も。

「うさまる……っ!」

 私はまだしとしとと降り続く雨の中、一度止めてしまった足を踏み出し、規制線をくぐろうとした。しかしその瞬間、交通規制をしていた警察官に、うしろから手を引かれた。

「この先は危険ですので、立ち入らないで――」

「うさまるが! 大事なペットがまだ家の中にいるんです!」

 泣きながら叫び、暴れ、警察官の掴んだ手を振りほどこうとした。

 すると、道の向こうから、一段と明るく周囲を照らすライトをつけた車が、こちらにやってくるのが見えた。
 オリーブ色の、大きな車。自衛隊のものだ。

 そちらを見ていると、警察官の手が一瞬緩む。私はその隙に規制線をくぐった。

「あ、ちょっと君!」

 そんな声を振り切り、私はそのまま自宅のあった場所へと走った。
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