魔法石の密造人/黒曜石と水晶とどっちが良い?

魔法石器、密造します!/最初の事件

1
 いつも毎日迷うことは、今日の素材には「黒曜石と水晶とどっちが良いか」。
 アネットの場合には、黒曜石なら炎や爆発、水晶なら冷気や防壁や回復の魔法を付加しやすい(石英の場合には質が落ちる)。おそらく個人のクセなのだろうか。作れる種類が違ってくるのだし、保管にも消費期限がつくから迷ってしまう。

(どっちにしよう?)

 引き出しの袋には、いつも黒曜石と水晶の素材のストックが置いてある。作業済みの作り置きは別の三つ目の袋に入れて別にして、幾つかは必要に備えて持ち歩いている。
 武器や道具に魔法効果を付与する「付呪」というノウハウやセンスや才能。しかし、普通の材質の武器に付呪すると負荷で磨耗や消耗が激しくなるから、特殊な魔法マテリアル(金属や植物)が戦略物資になっている。高級な魔法武器でない使い捨て用途が前提ならば、そこいらの木や石ころを素材にしても良いようなものなのだけれども、素材として耐久力がないので付呪そのものが困難だったりパワーに限界がある。
 でも、アネットには「出来た」。
 黒曜石や水晶(石英でも)のような結晶質の石であれば、普通の付呪の能力・センスがある人と比べても(それすら特殊な才能だ)、より強力なパワーを付加できる(普通なら作業中に砕けて使い物にならなくなるほどの)。使い捨ての「弾」であっても、魔族との戦いで十分に有効で殺せるほど。
 ただし一日に作れるのは強力なものなら五六個が限度で、たとえ質を落として頑張っても二十個くらいが限界なのだ。魔法力の容量キャパシティがネックになっているらしい。しかも作り置きしておいても、一ヶ月くらいでただの石ころに戻ってしまうのだから。

(どうして、神様はこんな中途半端な才能を)

 全く無力であるよりはずっと良い。
 そこだけは感謝すべきだろう。
 でもアネットは、この「付呪」するやり方でしかろくに魔法を使えないし、一個の作業に十分近くかかってしまう。必要なときに数秒で即興制作するなど無理な話だし、魔法力の容量から一日の製造できる数も限られる(たとえ作り置きしても威力が保持できるのは一ヶ月足らず)。
 戦士のように腕力や格闘スキルがあるわけでもない。だから全く無力ではなくとも、直接の戦闘力はないに等しい。
 できるから、やらずにいられない。
 こんな辺境では、もしも魔族に襲われたら、という不安や恐怖は常につきまとう(他の人のためにも必要になるかもしれない)。人間陣営の指導層や有力者と魔族の間では様々な「裏協定」が結ばれている(通商の利益保持や一定の安全確保の便宜上)。代表的な定番の悪例は、一定の条件下(被害者の数・所属階層・地域や日時・気候条件など)であれば「魔族が人間を襲っても追及しない」という狂った裏約束。
< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop